ゲーム感想「恐怖の世界」

2023年10月にリリースされた、ポーランドの個人開発者panstasz氏によるホラー・ローグライトRPG。国内パブリッシングはPlayism。2020年にSteamにてアーリーアクセス版が配信された際にアートワークを見てすぐ購入していたのだが、先日コンソール版の発売とともに日本語ローカライズもされ製品としてリリースされたのでプレイ。

ストーリー

198X年の日本。海沿いの塩川町では、いくつもの奇怪な事件が発生していた。カルト集団による奇祭、人々を脅かす不気味な怪物、都市伝説のような噂話から正気を失った人々の凶行。不穏な空気が町を覆う中、かつての支配者である「旧き神」がこの世界に再び目覚めようとしている。プレイヤーであるあなたは、町で起こる様々な事件を調査、解決し、旧き神の復活を阻止することになる……というのが冒頭。

塩川町の色々な場所へ赴き、事件や謎を調査する。
その途中で怪異との戦闘になることも。

感想

ストーリーからもわかるように、本作の世界観はH・P・ラブクラフトのクトゥルフ神話のようなコズミック・ホラーを下敷きにしており、さらにその中で起こるストーリーやイベント、そしてアートワークはホラー漫画家伊藤潤二の影響を多分に受けている。1980年代の日本で、海沿いの塩川町が舞台となっているが、福島県の内陸にある同名の町とは(おそらく)無関係と思われる。
ジャンルはホラー・ローグライトRPG。ローグライトと冠しているところから分かる通り、プレイするたびに発生する事件やイベント、プレイヤーキャラクターやその能力などが変化する(固定のモードもある)。発生するイベントは総じて不穏なものが大半。中には能力チェックが行われるものがあり、設定された能力値ラインの成否によっては成功とみなされプラスに働くものもある。ゲームが進行するたびに破滅度という値が上昇していき、これが100%になると「旧き神」が目覚めてしまいゲームオーバーになる。これらはイベントや事件の解決で増減するので、死なないように(もちろんプレイヤー死亡でもゲームオーバー)立ち回り、破滅度を抑えながらゲームを進行させていくのが基本の遊び方。
遊んだ感想としては、がっつりホラーとして楽しむというよりはそういう味付けがされたゲームブックのような具合で、ゲームとしての側面が強いと感じた。事件仕立てでストーリーを追っていくものが基本にはなるものの、ADVやヴィジュアルノベルゲームとして見た場合ゲーム内のテキストがちょっと淡白気味な部分は否めない。とはいえゲームとしての難易度とリプレイ性は絶妙。難易度設定ができるほか、実績によるアンロック要素やカスタムプレイ、エンドレスモードなど、思った以上にやり込みができる作りになっている。

特定の条件を満たすことでアイテムやキャラ、新たなエピソードなどが
アンロックされていく。実績要素が思った以上にあり、埋めたくなってくる。

難点としてはUIがとにかく画面に情報が溢れているところ。確認しなければならないステータスも多く、結構慣れるまで大変で、知りたい情報や行動までの手間も多い。ただデザインがこのようになっているのには明確な意図があるように思う。ゲーム起動時の古いパソコンの起動音のようなSEに始まり、画面外にCRTモニタを思わせる枠、1Bit(2Bitにもできる)のドットグラフィックやレトロ音源のサウンドなど含め、本作は初代~2代目マッキントッシュの「HyperCard」で作られたようなゲームに徹底的に寄せて作られていると感じた。HyperCardは簡単なプログラミングができるソフトウェアで私も子供の頃に触ったことがあるのだが、その視点で見ると本作はそのままHyperCard風ゲームで作れそうな挙動で構成されており、グラフィックも含めて完成度は相当に高いと思う。

ゲーム内拡大率を変更すると、まるで4:3のようなモニターが出てくる。
遊び心がある反面正直見づらいのだけど、それも含めても懐かしい。

あと意外といったら失礼かもだが、外国人開発者が手掛けたゲームにしては日本の描写にさほど違和感がなかった。というか「伊藤潤二マンガの日本」をかなり忠実に再現しているという印象。まあ設定が異常な空間であるので多少おかしなところは気にならないのかもしれないが、国産のゲームだといわれても納得できるくらいには馴染んでいる。

まとめ

というわけで、ラブクラフトや伊藤潤二、そして初期Macゲームなどへの愛が溢れた個人開発らしい作品。決して万人受けするような作りとはいい難いが、刺さる人には刺さる拘りが感じられる。ビジュアルや世界観が気になったのであればおすすめしたいが、最近のゲームほど親切ではないので、そこだけ注意。なんというか、伊藤潤二氏がバリバリ短編作品を出していた80~90年代にHyperCardでPCゲーム化されたらこんな感じだったのかもなと思わせられた。

アイテムショップのマスコットキャラである柴犬。
特に襲ってくるとかはない(多分)、このゲームで数少ない癒やし。

画像:© 2023 Ysbryd Games, Playism

PC(Steam)
https://store.steampowered.com/app/913740/_/?l=japanese

Nintendo Switch
https://store-jp.nintendo.com/list/software/70010000069712.html

Play Station Store
https://store.playstation.com/ja-jp/concept/10006260