ゲーム感想「Quantum Break」

「マックス・ペイン」シリーズ、「アラン・ウェイク」などを開発したRemedy Entertainmentが、2016年に作ったTPS(サードパーソンシューター)。時間を操作する特殊能力を持った主人公の物語である。
だいぶ前に購入して以来ずっと放置しっぱなしだったので、家にいる時間が長いこの期間にプレイしてみた。

このゲーム最大の特徴は、ゲーム本編の中に約30分の実写ドラマがまるまる数エピソード入っているということだろう。このゲームのメイン登場人物は実在する俳優たちを精巧に3Dモデルにおこしたキャラクターであり、ゲームをプレイしてある段階まで進行すると、そこから実写の俳優たちが引き継いでドラマパートとして物語を進めていく。この間、プレイヤーはまったくコントローラーを持つことなく、ただの視聴者になる。実写ドラマが終わると次のチャプターが始まり、またゲームパートに戻る……という流れである。
ショーン・アシュモア、エイダン・ギレン、ランス・レディックなど、普通に映画や海外ドラマで見かける俳優陣が参加しているだけあってクオリティが高く、良い意味で「ゲームの1シーン感」がまったくない。

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実写ドラマパート。かなり気合が入っている。
出典:https://www.remedygames.com/games/quantumbreak/

自分はムービーシーンの長いゲームはどちらかというと好きではない方だが、この方式は抵抗なく受け入れることができた。たぶん、ゲームで遊ぶ箇所と実写ドラマを観る箇所というのが明確にわかれているからだと思う。それと、この実写ドラマはプレイヤーが操作する主人公、ジャック・ジョイスがほぼ登場せず、それ以外の登場人物たちの別の場所での話に終始している、というのも大きい気がした。
特にゲームでは、自分がさっきまで操作していたキャラクターが長い時間勝手に行動したり、自分が思いもしなかった発言をしたり、それで状況が変わったりすると冷めてしまうことがある。物語を製作者の望む方向に制御するためのやむをえない方法だが、そこで生じる弊害を、このゲームは「主人公ではない人物たちを使って物語を動かす」という方法で見事に回避しているのである。

そして順番が前後するが、この実写ドラマパートが始まる前に、プレイヤーはそれまで操作していたジャックではない別の人物になり、これから起こることを決定する場面がある。
具体的にいうと、その人物に2つの選択肢が表示され、プレイヤーはその選択肢の内容をまるで「次回予告」のように観ることができ、どちらを選んだかによってその後の実写ドラマパートの内容が決まるのである。選択肢によってストーリーや結末が大きく変わるわけではないが、主人公以外の登場人物の生死が変化する。

この「ゲームパート」→「選択パート」→「実写ドラマパート」の流れで1つのチャプターが終わり、次のチャプターへと移行していく。これを数回繰り返せばゲームクリアとなる。

肝心のストーリーは、友人に呼び出されてタイムマシン実験に付き合うことになった主人公のジャック・ジョイスが、実験の衝撃で時間を操作する能力を手に入れる。しかし同時に時間自体が徐々に崩壊を始めてしまい、それを阻止するために奔走する……というタイムトラベルSFである。
「時間自体が崩壊」って何だって思われるかもしれないが、この面倒くさそうな設定や理屈を、ゲームの中にちゃんと落とし込んでいるのがすごい。
簡単に説明すると、「時間が崩壊していない状態」というのはまさに現実と同じ、「地球上のどの場所でも正確に同じ速度で時間の進んでいく」状態である。では時間が崩壊していくとどうなるかというと、これとまったく逆の事が起こる。「時間の流れ方が不安定化し、それが場所場所によってまったく異なってしまう」のだ。
ある場所では時間がほぼ停止しており、またある場所では時間が進んだり巻き戻ったりを繰り返す。時間が止まっている場所であれば、その空間内にいた生物はぴたっと止まっているし、そこに向かって外から何かを投げ込めば空間に入ったものは同じように空中静止する。進んだり巻き戻ったりはまさに「マンボNo.5」が流れるテレビのドッキリシーンのよう。実際は列車が突っ込んできたり鉄骨が落下したりするので、楽しい雰囲気ではない。
そうした様々な時間の異常が、極めて局所的に、同時に複数発生する。時間が進んでいる、止まっている、ぶっ壊れているというのが、視覚的に目で見てわかるのである。

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ジョイスの超能力「タイム・ストップ」。球空間の中でだけ、時間が静止している。なかなか面白い表現。
出典:https://www.igdb.com/games/quantum-break/presskit

そして主人公ジャックは実験の影響でクロノン粒子なるものを浴びており、そうした時間の影響を受けないどころか、時間を使ったスーパーパワーを使うことができる。時間を操作したゲーム体験は、「マックス・ペイン」ですでに「バレットタイム」という、プレイヤー以外のオブジェクト(敵や飛んでくる銃弾など)のゲームスピードが変化する仕様でやっており、今回はそれをさらに発展させた遊びになっている。
狙った箇所一帯の時間の進み方を一定時間(あくまで外の計測で)静止させる、自分の時間だけを高速化させる、未来視によって敵の位置を把握するなど様々。中には衝撃波を発生させたり、自分の周囲に壁を作り放たれた銃弾を逸らして回避するという、時間ではなく空間に干渉しているのではという技もあるが、好意的な解釈をするなら、時間の流れをねじ曲げるなどすれば単なる可逆以上の効果(直線移動するもののベクトルが狂う)もありそうな気はする。

とにかく、ジャックことプレイヤーは時間超能力者となって、迫りくる敵と戦うのである。最初は何をどう使っていけばいいのか戸惑うが、慣れてくると「あいつの動きを止めて、その間にあれを倒して、高速移動してぶん殴って、集中砲火が来るからガードして、その間に瞬間移動して隠れて……」と、それっぽく戦えるようになる。ジャックの耐久力は高くないので、基本的には被弾しないように隠れて戦うことが求められる。時間能力者なのだから時間止めて殺れないのかとも思うが、ステルスキルはできない模様。

ジャックが相手にする敵はモナークという、ゲームの舞台となるリバーポートに20世紀末から存在する巨大企業である(ゲームの最初の舞台は2016年)。モナークはタイムマシン実験が行われることをあらかじめ知っており、時間の崩壊が起こることも知っている。なぜ知っているのかはだいたい想像がつくだろうが、連中は時間の崩壊に備えつつも、それを阻止しようとするジャックの前に立ちはだかる。タイムトラベルSFらしく、「未来に起こることが確定しているとして、それを変えることはできるのか」というテーマにしっかり挑んでいる。未来を変えるために人生のほとんどを費やす人物たちの姿は、けっこう物悲しいものがある。

気になるところといえば、ゲームパート中に流れるメイン会話以外の音声(テレビの音とか音声ファイルとか)に字幕がついていない点と、ゲームパートと実写ドラマパートで字幕の表示形式が違うこと(ゲームパートは話者名入りで読みづらい)。すぐに慣れるが。

そうはいっても、作りからしてメチャクチャ尖った実験作。後続がいないことはそういうことなんだろうなという感じはするが、この規模でチャレンジをやっただけでも素晴らしいし、何より時間異常をゲームで表現するセンスに脱帽。ストーリーも普通によかった。好きなキャラクターはやっぱりチャーリー。自己中の弱虫クソ野郎なのだが、覚悟を決めたあとの命乞いシーンはちょっとしびれる。

Steamなどでたまに安くセールしているので、気になる方は遊んでみるといいかもしれない。ドラマの1シーズンと同じ、だいたい10時間前後で終わる。
ちなみに、この実写ドラマ部分はゲームのデータには入っておらず、ゲーム起動中にインターネットに接続してのストリーミング再生という方法を取っている。つまりネットが繋がっていないとこの実写ドラマパートをみることはできない。これはゲームディスクの容量的にデータとして収めることができない問題に対する苦肉の策らしい。こういうところも含めて尖ってるなあと思うわけである。

Quantum Break(公式)
https://www.remedygames.com/games/quantumbreak/

PC(Steam)
https://store.steampowered.com/app/474960/Quantum_Break/?l=japanese

Xbox One
https://www.microsoft.com/ja-jp/p/quantum-break/bpndkqn84n6l?activetab=pivot:overviewtab