ゲーム感想「メトロイド ドレッド」

2021年10月発売の、横スクロール探索アクションゲーム。開発、販売は任天堂。開発協力にスペインのMercury Steam。Mercury Steamは2017年の「メトロイド サムスリターンズ」(2のリメイク)を手掛けている。シリーズとしては「メトロイド フュージョン」 の後の物語が19年ぶりに語られ、派生作品を除いた横スクロールとして久々の完全新作とのこと。

長いブランクを経て制作された続編のためか、ゲームを開始すると最初にシリーズ全体のストーリーや重要な要素「メトロイド」「X」「鳥人族」についておさらいしてくれる。Xは他の生物に寄生し殺害したうえにその生物に擬態するという危険な原生生物。そして、そのXを捕食するアンチ的存在がシリーズタイトルにもなっているメトロイドで、メトロイドは鳥人族という種族が大昔に作った対X用の人工生命体、という関係になっている。
主人公である女バウンティーハンター、サムス・アランは「フュージョン」でXに寄生されかけたが、メトロイド・ワクチンの力で一命をとりとめ、さらにXへの耐性も入手している。Xはサムスによって一度は根絶されたはずだったが、本作「ドレッド」にて冒険の舞台となる惑星ZDRにもいたことが判明。そこでサムスがZDRへ向かったのだが、謎の鳥人族の戦士に襲撃され戦闘になるもやられてしまい、気がつくと能力のほとんどを失って倒れていた……という状態からゲームはスタートする。

過去シリーズの設定が絡み、しかも冒頭でしっかりと敵を見せるなど、本作はバックボーンだけでなく、ゲーム中にしっかりと物語を見せようという意図が感じられる。エリアの道中に点在するアクセスステーションではサムスが乗ってきた宇宙船のAIと通信ができ、現在いる場所の情報や状況などを知る場面も多い。個人的には物語的動機がなくても面白いのが「メトロイド」だと思っていたのだが、実は「フュージョン」からこの傾向が強まっていたようだ。ゲームの最序盤はイベントムービーがちょっと多いかなと思ったが、これは探索アクションを遊ばない人に向けた配慮だろう。全体としては探索を阻害せずに何をするべきかといった誘導を手助けしてくれる。

遊んでまず驚いたのは、サムスの移動挙動である。近作「サムスリターンズ」に比べて横方向の移動量が大幅に増え、かなり機敏になっている。スライディングや壁蹴りなどの特殊アクションも爽快感を補助しており、ストレスがないどころか操作していて楽しいのだ。ジャンプのクセや、一部能力のボタン割り当ての紛らわしさ(特にミサイルとグラップリングフック)など、パーフェクトな快適さではないものの、それでも「移動がメインのゲームで移動が気持ちいい」のは大きなアドバンテージだと思った。
「サムスリターンズ」から追加された「フリーエイム」「メレー」仕様も健在で、両方とも移動中にも使用でき、スピード感を維持できるようになっている。特にメレーに関して、「サムスリターンズ」では一部のボスなどでメレーカウンターを成功させるとイベント演出に移行し、その間一方的に攻撃ができるというものがあったが、今作ではメレーを使って一部ボスとの戦闘中に「QTE」(クイックタイムイベント)が発生するなど、演出面が強化されている(後述)。

とにかく今作のサムスは動かしていて気持ちがいい。
その上「サムスリターンズ」登場の仕様も、より扱いやすくなっている。

他にも、周囲の地形や隠しブロックの位置がわかる便利能力「スキャンパルス」は、マップの規模がわかるエリアごとの端末と、短時間のみ周囲の隠しブロックを示す「パルスレーダー」というスキルに役割が分離した。やりすぎ感はなくなり、それでいて役立ち度は担保されたままのナイスな変更に。
そして、探索アクションには不可欠要素の地図機能も進化しており、行く手を塞ぐ障害のほとんどが確認できるようになっている。色やアイコンなどで識別されているうえにまだ破壊できない障害物などは?で表示されているので、「あの壁どこにあったっけ」と探し回ったり、「この能力であそこどうにかできるのでは」と試しに行ってガッカリしたりことはなくなった。
さらにマップの踏破が「部屋」単位からもっと細かいグリッド制になったため、同じ部屋の中でもここは通ったがあっちには行っていない、といった過去の道順までわかるようになっている。こちらに関しては便利な反面、マップ踏破率という概念がなくなってしまったので個人的にはちょっと残念(もちろん自力で全部塗りつぶすことはできる)。しかしこの地図機能の決定版ともいうべき充実っぷりはすごい。

そして、本作ではステージ設計にも変化が見られる。基本的には新しい能力で行動範囲が拡大されていく楽しさや、隠されたアイテムをどうやって入手するかに頭を悩ませながら複雑に入り組んだマップを進んでいくのは変わらないが、本作ではストーリーの進行状況に合わせて、一時的に移動範囲を絞るということをやっているのだ。これはどこへ行けばよいか迷わなくなる反面、自由度がなくなることでもあるので、実際のところトレードオフではある。しかしそのため特殊なシチュエーションを作り出せるようになり、実際に「今まで通っていた道が破壊され、何とか逃げおおせたが戻れなくなった」というようなストーリー展開を積極的に入れ込んでいると感じた。恐ろしいのは、この複雑な迷路といってもいいマップで、取得できる能力などを鑑みながら「この状態のときはここまで行ける」という、ストーリーによって変化する移動可能範囲を制御していること。もはや職人の域としかいいようがない。
さらに今作の大きな要素である「E.M.M.I.」というロボットから逃げる仕様が、今までの「メトロイド」における探索を変貌させている。このE.M.M.I.とは、サムスが来る前に送り込まれたのだが、敵に操られサムスを追い回すようにハッキングされた超高性能ロボット。こちらの攻撃は撃退可能状態になるまで何一つ効かないうえに、捕まるとほぼ即死。 ホラーゲーム色が強いこの要素を公式でも強調しており、各エリアでこのE.M.M.I.から逃げながら目的地を目指すというのが、ゲームにおける一つのフェーズとなっている。
音に敏感なE.M.M.I.は壁を隔てていてもプレイヤーの移動などに反応する。さらに、ロボットというだけで多少理不尽な動きや生き物らしくない動き、超反応をしても説得力がある。E.M.M.I.が徘徊するエリアは区切られており、エリアから出てしまえば追跡されることはない。目的地まで到達すれば撃退する手段が手に入り、今度はE.M.M.I.が徘徊するエリアでの破壊フェーズになる。そのためE.M.M.I.が稼働している間は常に追われながらの緊張感ある探索を強いられ、破壊フェーズでは逆にその地形を利用して迎え撃つというメリハリの効いた流れになっている。

サムスを捕まえようととにかく執拗においかけてくるE.M.M.I.。
機械的な動きを逆手に取った見た目になっていて、巧いなーと感心。

もちろんE.M.M.I.以外にもエリアにはサムスを待ち構える固有のボスがおり、こちらは攻撃をどう避けるか、弱点はどこにあるかなどを見つける、従来のアクションゲームに近い遊びになっている。メインストーリーの進行、E.M.M.I.からの逃走と破壊、エリアボスなど、全体としてかなり飽きさせないようになっており、マップ探索の面白さの裏にある単調さのようなものを払拭しようという意図が感じられる。

もう一つ大きな要素として、「QTE」要素が追加されていることが挙げられる。QTEは演出の途中で突然「この操作をしろ」という指示が出る(大体は決められたボタンを押す)のでそのとおりに操作を行うという遊び。詳細な理由は省くが、この遊びはプレイヤーが得るメリット・デメリットの釣り合いが悪くなりがちで、不評を買うことの多い扱いづらい仕様といわれている。
しかし実際に本作を遊んでみると、押すボタンがメレーに固定されていること、成功時のメリットが大きいこと、失敗してもペナルティが少ないこと、再度同じQTEに持ち込む機会があることなど、嫌な部分をかなり緩和しようとしていると感じた。流石にコレでしかダメージを与えられないボスなどはやりすぎだと思ったが、結果として横スクロールアクションとは思えないほどの演出効果を生み出しているように思う。まあ、成功時の演出は「ゲーム中にはできない派手な動きをしている」感が出るのは致し方ないが(これがあるから自分は過度なQTEやムービーが苦手だったりする)。
また、QTEはE.M.M.I.に捕まって本来やられてしまう状況下での、起死回生チャンスとしても使われる。こちらは受付時間がシビアで、成功したら儲けものぐらいの難しさ(どうやらタイミングにパターンがあるらしい)。リトライが容易という前提があるからだが、こういう使い方はまったく嫌ではない。

E.M.M.I.にもQTEにもいえることだが、どちらも遊びとしては古くからあるものであり、これらを探索アクションという完成されたゲーム性の中に入れ込み、緊張感や演出面といったゲームの幅を押し広げていくという手法には任天堂イズム、もしくはヨコイズム的なものを感じる。
本シリーズから「メトロイドヴァニア」というサブジャンルが生まれ、インディーズを中心に「メトロイド」や「キャッスルヴァニア」の面白さの再現を目指すゲームが生まれ続ける中、本家「メトロイド」はさらに先へ向かおうとしているのかと思うと、もう一生追いつけないんじゃないかという気さえしてしまう。

というわけで、近作「サムスリターンズ」で登場した各仕様がさらに洗練されており、ステージ設計も高水準。探索アクションジャンルにおける「王者」の最新作として、文句のないクオリティ。E.M.M.I.のホラーゲーム要素やQTE演出など、好き嫌いはあれどジャンルに対する新しい刺激になっており、その挑戦的な姿勢にはしびれてしまう。エリア移動時の読み込みの長さだけが明確なマイナスだが、全体として恐ろしい作り込みで、間違いなく横スクロール探索アクションの定番になるだろう作品。おすすめです。

画像:https://www.igdb.com/games/metroid-dread/presskit

公式サイト
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