ゲーム感想「サガ フロンティア リマスター」

2021年4月に発売された、スクウェア・エニックスのRPG。元は1997年、スクウェアソフト時代に開発されたゲームで、今回出た「リマスター」はその名の通りオリジナル版の内容そのままに、グラフィックや一部UIなどの調整のほか、新規追加要素などをプラスしてある。

「サガフロンティア」は、ゲームボーイで1989年に出た「魔界塔士サ・ガ」から続く「サガ」シリーズ初のPS1で出された作品。直前のSFC3部作「ロマサガ」シリーズはいわゆる中世ヨーロッパ風ファンタジーなイメージの強い作品だったのだが、サガフロンティアはイメージを一新し、メカや電脳空間といったSF要素、特撮ヒーロー風の話や、耽美系の世界観など、様々なものがごった煮になっている。
「サガフロ」の世界はそれぞれリージョンといわれる惑星のようなものが点在しており、基本的に人々はリージョンシップという船などであちこちに移動しあっている。人々というのはヒューマン(人間)だけでなくモンスター、メカや妖魔など様々。大半は普通に言葉を話し、NPCとして町を歩いていたりお店の店員をやっていたりする。このなんでもありな感じは同社のRPG「ファイナルファンタジー(FF)」シリーズとの差別化を意識していたのではないかと思う。当時から「FF」が物語を重視した正統派なイメージで、「サガ」は物語よりゲームとしての面白さややり応えに重きを置いていた気がする。

ゲーム内のスクリーンショット。「サガフロ」を象徴するリージョン、クーロン。
ネオンが光る露店街の通りに、様々な種族が闊歩している。

「サガフロ」はゲームスタート時に7人いる主人公から一人を選ぶ。ここでも人間だけでなく、メカやモンスター、人間と妖魔のハーフになってしまった少女など、バリエーションは様々。皆それぞれ目的やバックボーンが異なるのだが、かなりストーリーがしっかりしていて都度進行が制限されるキャラクターもいれば、序盤の会話イベント後にいきなり世界に放り出され、望めばすぐラストダンジョンに挑めるような投げっぱなしのキャラクターもいる。ちなみにラスボスはすべて異なっており、それぞれに専用曲が存在する。コンポーザーの伊藤賢治氏の楽曲はどれも素晴らしく、今聞いてもやっぱりテンションがアガる。そして今作「リマスター」では、オリジナル版に入り切らなかった8人目の主人公「ヒューズ」が追加されている(後述)。

さて、「サガフロ」といえば戦闘だろう。いわゆるターン制で、ターンの区切りごとに行動を決め、その後に味方と敵が動くというのを繰り返すタイプの戦闘システムだが、同社から発売されていた「ファイナルファンタジー」シリーズと同ジャンルでありながら、「サガ」の戦闘は「ロマサガ」シリーズから受け継いだ閃きや見切り、そして「サガフロ」で初登場となる「連携」システムのおかげで、良い意味で予想外の結果に行き着くことが多く、そこが楽しさに繋がっている。
特に以降のシリーズでも受け継がれていく「連携」は、選んだ行動(攻撃技や術)を味方たちが連続で繰り出していくシステムで、派手めのエフェクトの後にそれぞれのアクションが矢継ぎ早に繰り出されコンボのような見た目になるほか、それぞれが単発で攻撃するより結果的に高いダメージとなるため非常に爽快感が高い(ちなみにこの「連携」は敵側も使ってくる)。
派手めの演出や技が象徴するように、「サガフロ」(というか「サガ」シリーズ)はそもそもダメージ倍率が大味で、味方のHP上限が3桁ながら、敵の攻撃で4桁ダメージをくらって即死なんていうこともざらにある。しかし、装備耐性によって攻撃を完全防御できたり、戦いの最中に一つ技を閃いただけで戦況が変わったり、ステータスを調整して行動順を変えたりするだけで連携が繋がるようになったり、そうしたたった一つの変化で強さ的にどう考えても勝てないような敵ともやり合うことができる。「サガ」シリーズの戦闘がシビアかつ大味ながら面白く感じるのは、こうしたプレイヤーに有利な不確定性のおかげだと思う。

ゲーム内のスクリーンショット。自分で狙って作った5連携。
見た目やエフェクトも派手だが、連携すると技や術の名前が繋がるのも面白い。

また、様々な世界観のキャラクターが登場するのも魅力の一つ。大まかにヒューマン、妖魔、メカ、モンスターに分類できるが、それぞれが固有の成長方法を取っており、これがゲームシステムとうまく組み合わさっていて興味深い。
ヒューマンはいわゆる人間で、戦闘に勝つことによって筋力などの各ステータスが上昇していく。また、シリーズの醍醐味の一つである技を閃くことが可能。オーソドックスでわかりやすく、最初こそ弱めだが時間をかけてやり込んでいけば最終的に一番強くなるタイプ。
個人的に好きなのが妖魔で、彼らはある種観念的な存在であり、人間よりも長命で成長(老化)しないという設定なのだが、ゲームシステムもそれにならって戦闘に勝ってもHPや魅力など一部を除きステータス上昇しないという仕様になっている。その代わり、彼らは身につけた「妖魔の武具」にモンスターを憑依させ、その力を自らの能力値に加算することができる。人間のように技を閃くこともなく、使えるのは術と憑依させたモンスターの技というかなり尖ったタイプなのだが、存在が不変であり成長しないという設定的な部分を、見事にゲームに落とし込んで表現している点が本当に巧いと思う。これは遊んだ当時も思ったことだが、2021年の今になってもその感想は変わらない。
他にもモンスターは倒したモンスターを吸収することでどんどん技と姿を変えられるし、メカは装備枠に装備をパーツのごとく自由に装着でき、モンスターと同様に倒したメカ系モンスターを解析して能力(プログラム)を手に入れることができる。こうした多様なタイプが存在するため、パーティ編成次第ではゲーム開始早々からメチャクチャ強敵と渡り合うといったこともできる。大雑把に見えて、種族ごとの成長の違いなど考えることが多い。この絶妙なバランスが「サガフロ」の面白いところだと思う。

という感じで1997年に出たゲームの内容について長々と語ってしまったが、今作「リマスター」で追加された部分について触れる。
まず、目玉となっているのが、8番目の主人公「ヒューズ」の追加である。このキャラクターはこの世界全土をパトロールするリージョン警察(IRPO)の捜査官。ヒューズのストーリーは特殊で、彼以外のクリアした主人公の物語を、事件仕立てで別の角度から追っていくようなものになっている。ゆえにストーリーとしては複数あるものの、彼自身の独立したストーリーはなさそう。一応、彼専用のテーマソングやボス曲、エンディング曲などはあり、刑事ものを意識したような熱い感じに仕上がっている。さらにヒューズ編では追っている事件に無関係な主人公をすべて仲間にできるなど、他の主人公よりも自由度の高いパーティ編成が可能となっている。
その他にも、オリジナル版ではヒューズ同様にゲームには実装されなかった、いわゆる没イベントが正式なものとして入っている。これも当時から攻略本に載っていたような記憶がある(攻略本が未実装データについても触れているなんて、よく考えるとすごい話だ)。
また、今作「リマスター」ではUI画面に変更が加えられ、装備選択中にそのキャラクターがどんな耐性効果や弱点を持っているかが確認でき、ステータスを把握しやすくなっている。他にも移動や戦闘を倍速化できる機能や、マップの遷移場所を示すアイコン表示、シナリオで次にどこへ行けばよいかを教えてくれる機能の追加など、オリジナル版そのままでなくかなり改良、調整が施されている。
そして嬉しいのが、オリジナル版で使えていたいくつかのバグ技が今作でもそのまま使用可能になっている点。一部アイテムを増殖できたり、ジャンク屋で無限に掘り出し物を漁れたり、一人だけ複数回行動できたりなど、基本的にプレイヤーの有利になるようなものばかりだが、そうしたものがすべて残されている。これらはおそらくあえて残したのだろう。致命的な不具合ではなくプレイヤーの有利にしかならないというのもあると思うが、バグまで含めてオリジナル版の「体験」ができるのは素晴らしいと感じた。

というわけで、オリジナル版を遊んだことのある人は懐かしく遊べるし、未プレイの人からしても20数年前のゲームながらだいぶ遊びやすい部類だと思う。またシリーズに共通する、あっさりしていながらクセが強く頭に残るテキストや、簡素だがテンポの良い会話イベントなど、この絶妙な引き算と割り切りも今の時代には逆に見所となっているように思う。スマホゲームなどでキャラクターだけ知っている、という人もぜひ遊んでもらいたい作品。