ゲーム感想「The Last of Us Remastered」

2020年5月24日

2014年にPS4で配信。Naughty Dog開発。元は2013年にPS3で発売されたゲーム。
2020年6月に続編に当たる「The Last of Us Part II」が発売されるので、今更ながらプレイ。

世界的パンデミックが発生し、社会システムが崩壊してから２０年後の世界。
パンデミック発生時に一人娘を失い、失意の日々を過ごしてきた主人公ジョエルは、米軍に抵抗する組織「ファイア・フライ」から、エリーという一人の少女を運ぶ仕事を引き受けることになる……というお話。
物語冒頭はパンデミック発生時のシーンだが、ゲーム中のテレビ画面に映る、緊急事態宣言を告げる報道内容が2020年現在まさに新型コロナウィルスに関するニュースと重なっていて、感慨深いものがあった。

このパンデミックがどんなものかというと、早い話が「ウォーキング・デッド」や「ワールド・ウォー・Z」などいわゆる「ゾンビ・パンデミックもの」のゾンビを、キノコの怪物に置き換えた感じである。
人間に寄生するキノコの菌が突如蔓延した。これに感染すると思考を失って人を襲うようになり、さらに症状が進むと脳に回った菌が冬虫夏草のように成長してモンスターのような姿になってしまう。治療方法がないため、この世界では感染（キノコ胞子を吸い込むか、感染した人間の体液を摂取）した段階で即座に殺されるか、また自ら命を絶つことが多い。

人類はこのキノコの怪物たち「感染者」に生存を脅かされているのだが、どちらかというとこれは舞台装置で、それと同等かそれ以上に、社会が機能しなくなった中での人間同士の争いがストーリーの軸となっている。

ゲームジャンルとしてはTPS（サード・パーソン・シューター）。自分が操作するキャラクターの背中越しに前方を見ながら、銃で相手を倒していくゲーム。
基本的にはNaughty Dogの代表作「アンチャーテッド」シリーズ（ハリソン・フォードが「すげぇ～」とか言うCMを覚えていないだろうか）と操作感、ゲーム性はほぼ同じ。ただしジャンプなどよりアクション向きな操作はカットされており、シューターとしての側面が強い。
「ゾンビっぽいキノコの怪物」なのでホラーと思うかもしれないが、いきなり飛び出してくる等のビックリ怖がらせ演出はない、バリバリのアクションである。ただし暴力描写はきつめ（CERO Z指定）。

場面ごとにプレイヤー1人に対して10～20くらいの敵がおり、正面きって戦うとメチャクチャ辛いので基本的には見つからないよう隠れながら1人ずつ倒していくような戦術が推奨される。また、前述の世界設定により物資に余裕がなく、銃を撃つゲームでありながら常に弾切れに悩まされるので、そういう意味でもステルスプレイを強いられる。
また、ゲームシステムとして「物音」が重要で、特にモンスター化した「感染者」は頭がキノコになって視力を失った分聴覚が異様に発達しており、プレイヤーが立てる足音や物音を頼りに行動してくる。
それを逆手に取って、落ちていた瓶やレンガを明後日の場所に放り投げて「感染者」を誘い出すこともできる。敵として出てくる人間も、もちろん銃声などに反応するし、ステゴロなど始めれば一発で周りに知れ渡ってしまう。

武器は銃器以外に、そこらに落ちている物資を使って工作した武器（「刃物」と「テープ」でナイフ、「布」と「アルコール」で、回復キットや火炎瓶など）がある。敵がそこらを徘徊するなか、身を隠して必死に道具を工作する場面などは焦燥感がよく出ていて世界観の落とし込みがうまいと感じた。
一方で、隠れて戦わないとメッチャきついというゲームデザインなため、遮蔽物がまるでないところは敵が出てこない、またこれ見よがしに遮蔽物があるところではこれから戦いがあるなど、展開が見え見えだったりする。また、マップの正解でない道筋にも弾薬や物資が落ちているので、戦闘を有利に進めるために面倒でもマップを隅々まで歩いてアイテムを拾い集める羽目になるという、非常に割り切ったゲームゲームしている部分もある。この辺りも「アンチャーテッド」シリーズと同じである。

地形、敵の配置、落ちているアイテムなど戦略性があり、それらをフルで駆使してちょうどよい感じに勝てるくらいにの難しさ（難易度ノーマルの場合）。頭を使いタイミングを見計らってチクチク敵の数を減らしていく過程を楽しめる人には合う気がする。
ちなみに個人的に好きな武器は、音を立てず遠くの敵を倒せる弓と、巻き込みで敵を倒せる火炎瓶、置き地雷として使える爆薬。
少し残念に感じたのは、プレイヤーの敵である人間たちと、感染者が入り乱れて互いに潰し合うゲームシーンが本編では皆無だったこと（付属のサイドストーリーではあった）。

ストーリーについては、すっかり大作スタジオとなったNaughty Dogだけあってその語り口は非常に豪勢。
こういう3Dゲームではとにかくムービーシーンが多用されたり、イベント中プレイヤーは動くことができずにただメッセージを送ったり音声を聞いたりする傾向があるのだが、一部の、特に海外ゲームの一つの様式として、ゲームシーンの中でキャラクターが喋ったり爆発など場面に変化があったりする中でも、プレイヤーは操作を奪われることなく自由に動き回れるといったものがある。
当然、後者の方がコストも高いし考えることも多い。そして、Naughty Dogのゲームはこちらの比重が高い。もちろんまったくムービーシーンや操作を奪われる場面がないわけではないが、それらはゲームプレイやストーリーが一段落するときの区切りとして、効果的に使われていることが多い。ただの会話シーンなのに、プレイヤーが自由に移動し行動できるマップを作成するなど贅沢の極みなのだが、Naughty Dogのゲームが恐ろしいのは、このマップがストーリーの都合上二度と訪れることがないため、一度しか使われないものがほとんど、ということだろう。

物語は、「崩壊した世界で人間性とは何かを問われる」というポストアポカリプス、いわゆる「終末もの」のお約束的命題と、娘を失ったジョエルが、エリーとの交流を通じて父親（というか人）の情を取り戻し、擬似的な親子関係を築く内容になっている。

ストーリーの区切りは四季で分かれており、夏→秋→冬→春とロケーションや置かれている状況が代わり、飽きさせない。
基本的にはプレイヤーは中年男のジョエルを操作するのだが、あるタイミングで14歳の少女エリーを操作し、ジョエルと同じこと、つまり人殺しをすることになる。
子供がバンバン銃で人を撃ち、背後から忍び寄ってナイフを突き立てる。それを操作するのはプレイヤーである。なかなかショッキングだが、そうなっていく過程をかなりしっかり描いているし、そもそもエリーが生まれたのはパンデミック後の社会が崩壊し暴力が蔓延る世界なので、人殺しが許されないことだった世界のルールは当てはめられない。もちろんその時代においても良くないことであることは確かだが、キノコの怪物や、暴力で物資を略奪するならず者から身を守り生き残るためには、いずれ避けられない行為には違いないだろう。
また、崩壊以前の世界を知るジョエルも生きるために略奪行為をしていたことを示唆させ、そのことについて後ろめたさからか言及を避ける描写がある。
「アンチャーテッド」の主人公、ネイサン・ドレイクは遺跡発掘・探検を生業とするトレジャー・ハンターでありながら、冒険の途中に遭遇する敵をシリーズを通して1000人以上殺している。しかし物語中、そこに深く突っ込むことはない。「The Last of Us」はそこに踏み込んでいる。味方も敵も、非人間的行為に手を染めながら、それを肯定するようなことを口にする。そのリアリティの構築は成功しているように感じた。

もう一つ感じたのは、この崩壊後の世界の「西部劇っぽさ」である。別にテンガロンハットをかぶっているわけではない。
まず、ゲームに登場する銃器にフルオートマチックなものはほとんど登場しない。リボルバーやショットガン、ボルトアクション式の猟銃などがメインであり、さらには弓も登場する。たまに小屋に籠城して四方から迫りくる敵を倒す包囲戦もあり、軍が管理する隔離地区外で生きる人々は、銃で武装し自治のスタイルを取っている。
主人公ジョエルを突き動かすのは大義でもなんでもない極めて個人的な理由だし、そんな状況下でキノコの怪物だけでなく略奪者や過激思想の集団から逃れつつ、東海岸のボストンから「西」を目指して進むわけだ。
好きなシーンは、移動手段として馬を使うところ。馬上戦闘はなかったものの、銃を手に作り込まれた森を駆けるのは雰囲気があってよかった。

金と手間がかかった大作ゲームだが、そのわりにお値段はだいぶ抑えめなので、戦闘のスタイルに抵抗がないならおすすめである。
続編に備えて、またはパンデミック下に遊ぶゲームとしてもオツだろう。

The Last of Us Remastered
https://www.jp.playstation.com/games/the-last-of-us-remastered-ps4/

続編。数年後らしい。↓
The Last of Us Part II
https://www.playstation.com/ja-jp/games/the-last-of-us-part-ii-ps4/