映画感想「ダークタワー」

2017年のアクション映画。ホラー小説の帝王ことスティーブン・キングがライフワークとして20年以上書き続けた長編小説を原作とした作品。原作での準主役である少年ジェイクにスポットを当て、最後のガンスリンガー、ローランドをイドリス・エルバ、敵役となる黒衣の男ウォルターをマシュー・マコノヒーが演じる。監督はニコライ・アーセル。

あらすじ

消防士の父親を亡くしたジェイク・チェンバースは、毎晩同じ夢にうなされていた。それは機械に繋がれた子供や天高くそびえる巨大な塔、人の皮をかぶり人になりすます化け物といったおおよそ現実味のないものばかり。取り憑かれたようにそれらを紙に描き起こすジェイクは、当然のように周囲から孤立する。学校ではからかわれ、親に通わされているセラピストも、母が再婚した継父も彼を理解しようとしない。唯一母親だけが彼のことを案じていたが、夢の内容までは信じようとしなかった。
あるとき、継父が悩みのある子どもを預かる施設のスタッフを家に連れてくる。そのクリニックの人間は、ジェイクが夢で見た「人の皮をかぶる化け物」だった。ジェイクはクリニックの人間の手を何とか逃れた末、夢で見ていた場所「中間世界」へポータルを通じて転移する。そして、そこでこれまた夢で見た、黒衣の男を戦う「最後のガンスリンガー」ローランドと出会う……というのが序盤の流れ。

夢の中で塔が攻撃され、同時に現実で起こった地震に目が覚めるジェイク。
夢の出来事は現実なのか、現実が夢を作ったのか?

感想

原作小説「ダークタワー」は全7篇となっているが、出版社によっては1篇を上下巻、上中下巻と分けているため、全体としてはかなりの大ボリューム(自分は結構前に新潮文庫版で読んだ)。なので本作も当然すべてを落とし込んでいるわけではなく、ストーリーの抜粋や改変が行われている。
それでも、導入の流れはとてもキング映画らしい掴みのうまさで、それがとてもよかった。自分だけが知覚できる不安や恐怖と、それを周囲に訴えても誰も信じてくれない孤独感。周囲の人間にしてみれば、ジェイクの言動は妄想に取り憑かれたヤバいヤツでしかないというツボも押さえている。S・キング自身も子供時代に父親が蒸発した経験があり、それもあってかこういう心に傷や不安を抱えた少年の描き方がうまい。

そしてキング・ファンには周知の事実だが、原作「ダークタワー」は彼の膨大な他作品で発生した超常現象や怪物の正体、目的、理屈などが、この作品内で語られている設定とそのままつながっている重要な作品。過去のキング作品の登場人物が登場することもあり、いうなればキング作品全体を内包する世界でもある。映画版でもその要素はわずかながら取り入れられ、名作「シャイニング」や「IT」なんかを知っているとちょっとニヤリとできるし、「ミスト」で起こった事件の仕組みと思しきことが語られる。
原作ほどではないが、キング作品を知っているほどそれらのエッセンスが感じられ、相互的に面白味が増すという一応の要素は押さえているといえる(話が逸れるが、「ミスト」で主人公デヴィッドが冒頭で手掛けているポスターは「ダークタワー」だったりする)。

そんな本作は序盤こそキング節溢れるホラーや心霊的な雰囲気が強めなものの、途中からどんどんファンタジーになり、さらにローランドが2丁拳銃(おそらくレミントン・アーミー)を撃ちまくるアクションの割合がぐっと増える。これがなかなかの熱の入りようで、曲芸的なリロードや精神を研ぎ澄ませた長距離射撃、跳弾など、実にマンガ的なスーパープレイが目白押し。演じるイドリス・エルバの渋さも相まってカッコいい。

驚異のリロード芸で恐ろしい連射力を見せるローランド。
キング映画とは思えない、激しいガンアクションが繰り広げられる。

そして、ローランドと同等かそれ以上に存在感を発揮するのが、敵役である黒衣の男「魔導師」ウォルターである。マシュー・マコノヒーのひょろっとした病的な感じは雰囲気がよく出ているし、劇中でやることもひたすら外道に徹底していて一貫性がある。二人の戦いも、スーパー・ガンアクションvs超能力となかなか面白いのだが、ここまでくるとSFアクションなので、原作にあるホラー・ウエスタン・ファンタジー的な空気感とはちょっと違うかなと思った。
また、原作で出てきた他の仲間キャラクターはオミットされ、「深紅の王」といった原作ワードも出てくるだけでほぼ触れられない。このへんは長編作品の映画化にはありがちしても処理するのを諦めた感が漂っており、原作を期待するファンにも、未読の人にも若干不親切かも。

まとめ

というわけで、S・キング節の効いたホラーっぽく始まり、最後はガンアクションで終わる作品。実は原作を知っていると、改変でもなんでもない地続きの物語として位置づけることもできるという、ある意味で原作の懐の広さを感じられる作品かもしれない。小説の方は暴走機関車となぞなぞ対決したり、主婦たちが食器皿をフリスビーの要領で投げて戦ったり、思考を盗聴されない帽子をかぶったりと、ぼんやり憶えている部分だけでもなかなかハチャメチャなので興味がある方は読んでみるとよいかも(恐ろしく長いけど)。

画像:© 2017 Columbia Pictures Industries, Inc. & Mrc II Distribution Company L.P.