映画感想「怒りのガンマン 銀山の大虐殺」

1972年のマカロニ・ウエスタン。イタリア・フランス・西ドイツ制作。主演はマカロニ名優リー・ヴァン・クリーフ。監督は巨匠セルジオ・レオーネの愛弟子といわれるジャンカルロ・サンティ。72年というと、マカロニ人気も下火になりコメディ路線のものが多くなってきた頃だが、その中にあってかなり真面目一本を貫いている作品。

荒野の山途中にある寂れた町を通りかかった駅馬車。しかし町に入る手前で武装した町の人間に止められる。どうやら賞金稼ぎたちがこの町に逃げ込んだという死刑囚を取り囲んでいる最中らしい。立ち往生させられた駅馬車だが、その中にいた眼光鋭い男クレイトン(リー・ヴァン・クリーフ)は、彼らの威圧にも屈さず町の酒場へ堂々と入っていく。それを町に潜伏していた死刑囚フィリップも確認し、賞金稼ぎたちと銃撃戦を繰り広げた末に酒場へと逃走。出くわした二人は話しぶりからして面識があるようだが、特に仲が良いというわけでもない。あとでわかることだが、実はフィリップは殺人の罪をきせられた無実の男なのだ。彼を連れ出そうとするクレイトンに対し、フィリップはそれを信じず自分ひとりで生き延びようと画策するのだが……というのが序盤。

個人的には久しぶりのリー・ヴァン・クリーフ主演作品だが、やはり彼の眼力と顔力、そしてクリーフの正装ともいうべき黒スーツはかっこいい。「止まれ!」と銃口を向けられても、銃を手にも取らず無言で相手を睨みつけ、武器を降ろさせる。もちろん分別ある相手に対してだからこそ通じる技だが、そこに説得力を持たせる演技と迫力は流石で、こちらとしては「よっ、待ってました!」といったところ。先にも書いたが監督のジャンカルロ・サンティは「荒野の用心棒」で世界的有名になったセルジオ・レオーネの下で学んだ弟子筋とのことなので、クリーフの効果的な見せ方をわかっているのかもしれない。
本作のストーリーはクレイトンもフィリップも初めはどういう立場なのか、また何があったのかなどいっぺんには語られず、全体像が掴めるのはかなり後になってから。そのため特に序盤はこのクリーフの顔芸による引っ張りで大いに助けられているような気がする。一応、死刑囚の若者フィリップが軽業とともに派手に暴れるガンアクションを見せてくれるので、それも含めて退屈にはどうにかならずに見ていられるといった感じ。

背中を取るフィリップと、それにまったく動じないクレイトン(リー・ヴァン・クリーフ)。
やはりクリーフは黒スーツが映える。痺れる。貫禄がある。

ざっくりと大まかな関連性だけを説明すると、フィリップが殺したとされているのはサクソンシティを牛耳るサクソンという男で、極悪人として知られていた。そのサクソンには3人の息子がおり、長男が判事を買収したことでフィリップは死刑囚となってしまったのである。ここだけで何となくからくりが読めてしまいそうのだが、実際の事情はもうちょっと複雑で、しかもそこにはクレイトンも絡んでくるようになっている。
さらにフィリップはサクソンやその他の人間が知らない金鉱の場所を知っており、それゆえにその身を狙われているという、単なるクリーフの引き立て役的な若者というだけでなくかなりのキーパーソン。そういうこともあって、序盤こそダークヒーローっぽさを漂わせるクレイトンが主役かと思いきや、どんどんフィリップにスポットが当たり、主人公のような扱いになっていく。ただそもそもクレイトンはフィリップと張り合って前に出るというより、意図的に彼を助ける補佐役に回ろうとしている節があり(劇中に何度か「俺はもう年だから」と漏らしているし)、表面上の話だけでなく「年老いた者が(特に若い世代に対して)やるべきこととは」といった裏テーマがあるように感じた。まあ、全体的にちょっと詰め込みすぎた感はあるのだが、ちゃんと物語を見せようという気概が感じられ、個人的な印象としてはとても好ましい。特に事件の真相が明らかになったときの、それまでクレイトンの助けを拒んできたフィリップとの立場が真逆になったようなやり取りがよかった。

そして、ストーリー重視な作品でありながら、今作の悪役であるサクソン3兄弟がなかなか強烈。登場こそ作品の中盤とちょっと遅めなのだが、そこからかなりの個性と悪逆っぷりで追い上げインパクトを残してくる。中でも個人的にキテるなと思ったのが三男のアダム・サクソン。白いスーツに身を包んだあばた顔というだけで強烈な見た目なのだが、明らかに殺しを楽しんでいるクズ野郎で、サクソン家の悪口を言った老人に対して拳銃を手にホールドアップの体勢のままずんずん近づいていく姿は異様の一言に尽きる(で、怖がった相手が銃に手をかけたら正当防衛だとして撃つ)。さらにこいつには悪役としてこれ以上ない見せ場があるのだ。

拳銃を手に、両手を挙げながら目をギラギラさせて近づいてくる、
今作随一のイカレ野郎アダム(左右の男は手下)。白づくしのスーツにヘビ柄ストールもキモくていい。

アダムだけでなく、長男デビッド、次男イライも別ベクトルでワルである。町の保安官を務める次男イライは父殺しの犯人への復讐に燃えており多少人間的に描かれるものの、保安官権限と法の名を借りて好き勝手をやるし、サクソン兄弟を束ねる長男デビッドは人をモノのように扱い、大統領になる野心を秘めた正真正銘の悪党で、父サクソンの死の真相を知る人物でもある。終盤まで個性豊かな悪役側がかなり優勢な中、クレイトンとフィリップがどのように活躍していくのか、このへんは事件の真相とともにわりと見所だと思う。また、脇役でクレイトンと駅馬車に相乗りしていた女性が思わぬ形で話に絡み、しっかり芯の強さも描かれるなど登場人物の描写もうまいと思った。

というわけで、リー・ヴァン・クリーフの顔力と、凝ったストーリーで魅せる作品。アクション一辺倒ではなく事件やドラマ部分に重きが置かれているが、決めるところではしっかり決めるマカロニらしいエンタメ感を味わえる。個人的に印象に残ったのは、話とは何の関わりもないところだが途中の町で酒飲み2人がチェッカー(斜め飛びに相手の駒を取り合うボードゲーム)をしており、その駒が酒の入ったショットグラスになっているシーン。面白いこと考えるなあと思ったのだけど、調べてみたら実際に「ショットグラスチェッカーボード」というものが売られているようで、実はこれが一番「へえ~」と思った。

画像:© 1972 Surf Film Srl.