映画感想「シティーハンター THE MOVIE ~史上最香のミッション~」

2019年公開。フランス制作のアクションコメディ映画。
北条司原作の人気漫画「シティーハンター」の実写映画である。監督、脚本、そして主演はコメディ俳優のフィリップ・ラショー。最近Amazon Prime Videoに追加されたので、吹き替え版を視聴。

説明不要とは思うが原作の内容をざっくりいえば、新宿でスイーパー(問題解決屋みたいな仕事。探偵、ボディガードから裏の仕事までこなす)を営む主人公の冴羽獠が、相棒の槇村香とともに依頼者たち(大抵の場合美女)を助けながら悪人や闇の組織と戦う、といった感じである。女好きのエロ親父キャラながらメチャクチャ凄腕という冴羽獠のギャップがかっこよく、またシリアスな展開の随所にギャグシーンが差し込まれ、重苦しくないのが魅力だと思う。

そもそも「漫画・アニメの実写映画化」というのは得てして危険というか、全員が幸せにならない結果になりがちなものである。まして制作したのは日本ですらない、文化の異なるフランスである。果たして大丈夫なのかと疑いたくなるが、結論からいえば本作はまぎれもなく「シティーハンター」していた。
まず目につくのは、キャラクターの見た目の完成度だろう。特に主役の冴羽獠、ヒロインの槇村香、そして海坊主のメインキャラ3人は、漫画、あるいはアニメからそのまま飛び出してきたかと思うほど「そのまんま」である。ここだけで原作に寄せようという本気度は充分に感じられる。

映画冒頭シーン。冴羽獠(右)と、原作ではおなじみのキャラクター海坊主(左)の戦い。

そして、見た目以上に凄いと思ったのが脚本。オリジナルであり、舞台をフランスに移し多少原作と設定を変えつつも大事な部分は外さない(しかもその変更は映画として非常に意味がある)。見る前はどんなものかと疑っていたが、冒頭わずか10分足らずで「すいませんでした」と謝りたくなるほど、繰り出されるギャグのつるべ打ちにやられてしまった。たしかに「あー、こんな感じだったなー」と思ってしまったのである。ぼんやり覚えている獠のアパートの内装も、細部は違えど原作の雰囲気があるし、繰り広げられる獠と香のやりとりも、笑わせながら冴羽獠がどういう人物か、槇村香、海坊主との関係性などをさらりと説明している。

ストーリーは、時系列的には原作の設定通りに駅の掲示板にXYZの文字が書かれているのを香が見つけるところから始まる。これはアルファベットの最後の文字、つまり「もう後がない」という意味である。
アパートのシーンのあと、獠と香りは待ち合わせ場所で依頼人を待つ。現れたのはルテリエという名の中年紳士で、自分の父親が開発した惚れ薬「キューピッドの香水」を狙っている輩がおり、そいつらから守って欲しいと言う。美女からの依頼しか受けたがらない獠は依頼人にもその薬の効果にも懐疑的だが、効果を証明しようとルテリエは自分に香水を吹きかけそれを獠に嗅がせる。香水を吹きかけた人物がその匂いを他人に嗅がせると、嗅いだ側は香水をつけた人物が気になって仕方がなくなってしまうのだ。美女にしか興味がないはずの獠も、気がつくとその恰幅のよい中年おっさんの手を優しく握っている始末。そこで突如爆発が起こり、混乱の最中に香水とその解毒剤が奪われる。解毒剤を使わないと効果はいずれ定着してしまう。こうして、獠と香は香水を取り戻すことになるわけである。

この動機づけは原作者の北条司氏も「その手があったか!」とかなりお気に入りの様子。確かに巧く考えられており、女好きのキャラクターとして認知された冴羽獠のアイデンティティー崩壊の危機となれば、取り戻そうとする流れも自然だろう。この後の追跡劇も、バカバカしいギャグ、お色気ギャグの連続が続き、よくもまあこんなに思いつくものだと感心するほどである。

コルトパイソンを構える獠。こういうシリアスで決まったシーンの最中にも、
しょうもないギャグが挟み込まれる。

惚れ薬という非現実アイテムに関しては、原作はそもそも新宿で拳銃をぶっ放してもお咎めなしだったり、エンジェルダストという薬物で超人化したりとわりと荒唐無稽な設定であり、ギャグマンガ的表現もOKな世界観なので違和感はないだろう。ちなみに、香が100tハンマーで獠にツッコんだり、カラスが背景を飛んだりといった原作お約束の表現も、シチュエーションを工夫し実写で見事再現している。
正直シリアスより笑い成分が多めなきらいはあるが、原作の絶妙な空気感やリアリティラインはしっかり保っているし、獠と香の微妙な関係というおいしいところも逃さず、やはり忠実に組み込んでいる。「Get Wild」のかかるタイミングも外していない。ふざけつつも決めるところはしっかり決めている、まさに冴羽獠のような映画なのだ。

というわけで、海外制作ながら日本の漫画の実写映画化としてとんでもない完成度だと思う。字幕版だと獠はニッキー、香はローラとフランス版の名前になっているが、吹き替え版だと日本名の獠と香のままなので、多少でも原作を知っている人には拘りがなければ吹き替え版をおすすめする。
もしまったく触れたことがなくても、男女のバディ・コメディものとして十分に楽しめるはず。これは周りの反応がわかる映画館で観たかったなあと思った。

画像:© 2019 Axel Films Production, Baf Prod, M6 Films

Amazon Prime Video(吹き替え版)
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B084L5BMH9/