ゲーム感想「アサシン クリード ヴァルハラ」

2020年11月10日発売の、潜入アクション・オープンワールド・ゲーム。
UBISoftのモントリオールスタジオ開発。プラットフォームはPS5、Xbox Seriesといった発売したばかりの次世代機の他、PS4やXbox Oneでも遊べる。また、PCでも販売している。
自分は次世代機がないのでPCでプレイ。

アサシンクリード(略してアサクリ)シリーズは初代が2007年(日本は2008年)に出た看板IPの一つで、2020年現在でスピンオフを除いてもシリーズとして10作品以上出ている。自分はイタリアが舞台となった2がシリーズ初プレイで、そこからわりと新作が出るたびにプレイしてきた。
アサクリの特徴は、舞台となる場所の当時のリアルな街並みをまるごとゲームの中に作り上げ、その中を大量の人が往来し生活する「本物っぽさ」。特に現存する世界遺産や建造物がかなり精巧な形で登場するという再現度は、本当にその土地にいるような感じにさせてくれるのだ。プレイヤーはアサシンとしてその都市をパルクールのように縦横無尽に移動でき、高い建造物の上から周囲をマッピングした後、そこからはるか下のわら山などに飛び降りるというのがお約束。観光的な面と、そこを好き勝手に踏破できるという面白さがある。
またアサシンという設定の通り、物陰や建物の上から敵を奇襲し音を立てずに暗殺しながら標的に近づいていくというのも、パルクール的な移動とマッチしており楽しく、歴史上の人物を絡めたストーリーも好きだった。
そんなわりとシリーズファンだった自分だが、エジプトが舞台の「オリジンズ」、ギリシャが舞台の「オデッセイ」といった最近の2作品はプレイしていなかった。というわけで今作「ヴァルハラ」は、「シンジケート」以来久々のアサクリということになる。

「ヴァルハラ」の舞台は時代は9世紀ごろのノルウェーから始まる。
プレイヤーが操作するのはヴァイキングの戦士エイヴォル(性別選択可能)。元々ノルウェーに住んでいたが、色々あって兄のシグルドとともに「鴉の戦士団」を率いて新たな定住地、そして名声を求めて新天地であるイングランドに旅立つ。イングランドでは定住地を大きくするために、キリスト教の修道院を襲って略奪したり、いくつかの友好勢力と同盟を結ぶために奔走したりし、戦士団の名声を高めていくのがゲームの主な目的。

川から修道院を急襲。定住地を大きくするための建材はここに集められている。
移住組ヴァイキングの重要な仕事である。
(画像:画像:https://www.igdb.com/games/assassins-creed-valhalla-gold-edition/presskit)

当時のイングランドは、同じヴァイキングのデーン人(主にデンマークの北方系ノルマン人)がエイヴォルたちノース人同様イングランドに移住しており、島の覇権を求めて暴れまわっている。対して、元々イングランドにいたのはキリスト教を信奉するアングロ・サクソン(サクソン人)。
そして、ヴァイキングにはヴァイキングの信仰、神話があり、サクソン人からすればデーン人は異教徒かつ侵略者。このデーンvsサクソン、ヴァイキング神話vsキリスト教という戦いが繰り広げられているのが、今作の大まかな時代背景。

はじめに書いておくが、今作のストーリーは非常に面白かった。
特にヴァイキングという人種の思想や死生観がよく描かれていると感じた。ヴァイキングの信仰は所謂北欧神話であり、様々なファンタジーやゲームなどに多大な影響を与えている。ゲーム中はオーディンやトール、ヴァルキリーといった名称がなんの説明もなくセリフの中にぽんぽん飛び出すので、予備知識がある人はそれだけで言葉の意図や文脈が面白く感じるだろう。
北欧神話では、優秀な戦士は死後ヴァルキリーによって戦死者の館(ヴァルハラ)に導かれ、そこで宴と戦を繰り返しながら、最終戦争(ラグナロク)に備える。だから戦士としての名声は重要であり、男も女も好戦的で、土地の支配者として名を轟かせたい、という共通する価値観がある。
皆このために命を賭けるし、残虐な行為や裏切りすらも躊躇なくやってのける。当然話も暴力的な内容が多く、それまで肩を並べて戦っていたはずが急に殺し合いに発展することもあるなど、展開は劇的でスリリング。死が身近にあるせいか、思い入れのあるキャラクターがあっさり死んだり、血なまぐさい陰謀劇から親の死や役割の継承といったしんみりさせる話まで、バリエーションに富んでいる。
また、欲のために殺戮をしながらも死者に敬意を払う一面や、野卑で言葉に品がないかと思えば他者への称賛を詩にして朗々と語るといった多面的な姿が描かれ、キリスト教徒との交流を通じて自分を見つめ直すなど、決して暴力一辺倒ではないヴァイキング生活を味わうことができる。

そして、実はこのアサシンクリードの世界は実際にゲームのメインとなる部分とは別に、「現代編」というもう一つのストーリーが存在する。各時代のアサシン、またはそれに関わる者の冒険は、現代の人間が「アニムス」という装置を通して行う「遺伝子の中にある記憶のシミュレーション」ということになっている。
そう、実はアサシンクリードは、歴史オープンワールドと見せかけたSFなのだ。
その装置を作ったのは、「テンプル騎士団」という、世界征服を目論む秘密結社。彼らは長い歴史を通して「先駆者の秘宝」というアーティファクトを巡ってアサシンたちと争っており、その戦いは現代でも続いている。
過去に取ったり取られたりして所在が不明になった秘宝がどこで消えたのかを、その時代を生きた先祖の記憶を追体験することで探し当て、それを現代で発掘する、というのがアニムスを使う理由。
対するアサシンも、彼らから盗んだアニムスを使って各時代のアサシンの記憶をたどっている(プレイヤーは基本的にこっち側の人間)。今作のヴァイキング時代においても2つの勢力は動乱の裏で密かに戦いを繰り広げており、エイヴォルの物語にも大きく絡んでいく。
実際は古代人そのものが登場したりともっと複雑な要素があるが、大体こんな感じである。この現代編はシリーズを通して少しずつ物語が進行しており、こちらにしか登場しないキャラクターたちもいる。

ゲームシステム的にもとにかくマップが広大。ノルウェーには雪原や極寒の海、イングランドには朽ちたローマの遺跡やストーンヘンジなどが散見され、各地には膨大な数の収集要素、イベントなどが散らばっている。イベントは基本的には短く、少しの会話やその場の戦闘などで終わるものが多い。それらの中でも「口論詩」は、相手の言葉に対して選択肢が出るので巧い言葉でやり返すという、要するにMCバトルなのだが、これが実にくだらなくて面白い。ヴァイキングに必要な詩才が試される良イベント。
戦闘システムは、近作に続いてダメージ値は出るものの、その微差が明暗を分けたり、敵の動きに対してそこまで精密な操作が必要という感じはなく、「シンジケート」以前にあった大味さは残っているように感じた(実際のところ近作もこれくらいの大味さかもしれないが)。
ほどほどに戦略性も必要だが、スタミナゲージの存在があり、あまりにでたらめな攻撃や回避をしていると無防備になる場合もあるといった感じ。レベルアップの概念があり、そこで得られるスキルポイントを使ってスキルツリーからステータスアップをしていく。トレハン要素のようなものはなく、手に入れた装備を素材を使って強化していくシステム。武器防具の種類は意外と多い。中には神話に登場する武器もあるようだ。

また、発売直後に話題になった流血表現がカットされている問題についてだが、自分はよく知らずに「血の出が少ないな~」程度にしか思わなかった(オフ状態でも全く出ないわけではないし、人体破壊や残虐フィニッシュブローは健在なので)。12月中旬ごろにパッチで対応され、血がドバドバ出るようになるらしい。
そちらの問題よりかは、細かい不具合からフリーズまで、バグがそこそこ散見された方が気になった。オートセーブは頻繁に行われるのでそこまで深刻な事態にはならなかったが、こちらも改善してもらいたいものである。

(追記)流血表現は2020/12/15にパッチ対応されました。

「ウォッチドッグスレギオン」といい、類似のオープンワールドゲームを立て続けに出してきた印象だが、「ウォッチドッグス~」が「誰でも仲間にできる」というゲームとしての面白さで攻めてきたのに対し、今作「ACヴァルハラ」はゲームとしてのストーリーテリングや、ヴァイキング文化の描写といった「世界に浸る」点やフレーバーの部分で優れているのだなと感じた。
ボリュームも収集要素も相当あるので、長めで没入感があるものが遊びたい人にはおすすめ。

ゲーム内で撮った、ノルウェーの海でマッコウクジラを見つけたときのフォト。
ちなみに、あまりの寒さに泳いでいるだけでダメージを受ける。

Assassin’s Creed Valhalla(公式)
https://ubisoft.co.jp/acv